大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和28年(ネ)128号 判決 1955年10月12日

控訴人 原告 古賀タイ 外一名

被控訴人 被告 人吉金融株式会社 代表者 清算人 古賀満信 外四名

参加人 国 代表者法務大臣 花村四郎

指定代理人 今井文雄 外一名

主文

原判決中

(一)控訴人等の被控訴人古賀満夫・古賀満信・金沢ハルカ・小山ミツ子に対する株主総会決議不存在確認の請求を棄却した部分

(二)人吉市九日町二十六番の七家屋番号同町第二十五番の二木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二十三坪二合五勺外二階十四坪につき控訴人等の現物出資給付契約無効確認の請求を棄却した部分

を取消す。

右(一)に記載の請求については訴を却下する。

右(二)に記載の建物につき昭和二十四年六月亡古賀満次が被控訴会社に対して現物出資給付として為した譲渡行為は無効であることを確認する。

原判決中その余の部分に対する控訴人等の控訴は之を棄却する。

訴訟の総費用中本訴の費用の十分の一は被控訴人等の連帯負担とし、参加によつて生じた費用の十分の一は参加人国の負担とし、その余の費用はすべて控訴人等の連帯負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴会社の昭和二十四年六月十二日資本増加に関する臨時株主総会の『被控訴会社の資本金百万円を五百万円に増資し其の新株八万株は古賀満次に於て全部引受くること、但し其の新株は現物出資とし、古賀満次所有の別紙目録記載の不動産を同年六月二十五日迄に被控訴会社に給付すること』の決議の不存在であることを確認する。被控訴会社の昭和二十四年六月三十日右資本増加に関する監査役の調査報告承認及び資本増加の定款変更の臨時株主総会の決議の不存在であることを確認する。昭和二十四年六月十二日古賀満次と被控訴会社との間に於て為した別紙目録記載物件に対する現物出資による株式の引受契約及び同年六月二十三日現物出資給付契約の各無効であることを確認する。被控訴会社は熊本地方法務局人吉支局に対し昭和二十四年六月三十日受附被控訴会社の増加した資本の額金四百万円の登記に付錯誤を原因として其の抹消登記手続をせねばならない。訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人等との間に生じた部分は被控訴人等の負担、参加人との間に生じた部分は参加人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等はいづれも「控訴人等請求通りの判決」を求め、参加人国指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人金沢ハルカは第一審以来本件口頭弁論に出頭しないがその他の各当事者及び参加人の事実上の陳述は、

控訴代理人に於て、

(一)  参加人国の本件訴訟参加は民事訴訟法第七十一条前段の訴訟の結果により権利を害せらるべきことを主張する第三者に該当しないから、右参加は不適法として却下せらるべきものである。蓋し右に所謂参加の要件は、それ自体本件訴訟上顕著なる事実であるか、若くは明かに認めらるるものたることを要するものであるに拘らず、そのいづれも存在しない本件参加申出は、当然排斥せらるべきものである。但し、参加人が参加申出の理由として述べる事実中「人吉税務署長は云々」以下「譲渡所得百三十九万二百五十円が含まれている」迄の事実は之を認める。なお、参加人の本件参加申出は共同訴訟的補助参加としても不適法である。

(二)  被控訴会社の昭和二十四年六月十二日及び同月三十日の両度に開催せられた臨時株主総会に於ては、夫々議事録は存するけれども、(イ)当時の招集権者たる代表取締役古賀満次より各株主に対し書面による招集の通知なく、適法なる招集手続が行われていない。(ロ)右議事録記載の日時場所に於て総会は開催されていない。(ハ)右総会に同記載の株主の出席はない。(ニ)斯くて総会の開催というものがない。従つて開催なくして決議の存する筈のないのも当然である。されば丙第一、第二号証(総会決議録)に表示せらるる決議なるものは真実は存在しない虚構のもので、商法第二百四十七条(昭和二五年法律第一六七号による改正前のもの。以下同様)にいう総会の招集手続又はその決議の方法が法令又は定款に違反する場合に該当するものでなく、その決議は当然絶対に効力を生ぜぬ無効のものである。

(三)  本件の各株主総会の招集が仮りに電話若くは使者による口頭の通知によるものであつたとしても、株主総会の招集は書面を以て通知せねばならぬことは、商法第二百三十二条第二項に「前項の通知には会議の目的たる事項を記載することを要する」と規定しおるところに徴するも明瞭であるから、書面によらない口頭招集(例えば電話による通知又は使者による口頭通知)は招集なきに等しきもので、這は商法第二百四十七条の招集の手続が法令又は定款に違反する場合ではなくして、かかる通知による招集によつてなされた決議は当然無効のものであり、同法第二百四十八条若くは第三百七十一条所定期間の経過によりその瑕疵が治癒せらるべき筋合のものではない。

(四)  仮に本件増資に関する株主総会が存在したとしても、その増資につき古賀満次の為した現物出資の目的物件中人吉市九日町二六番の七家屋番号同所第二五番の二の建物一棟は、昭和二十四年六月十二日の増資決議の当時は勿論、同月三十日の増資報告承認決議当時に於ても、現物出資による株式の引受者であつた古賀満次の所有ではなくして訴外小山十郎の所有に属し、株式引受者たる古賀満次は遅くとも右増資報告承認決議のなされた昭和二十四年六月三十日迄に右物件の所有権を訴外小山十郎より取得して之を被控訴会社に出資義務の履行として移転すべきものであることは、株式会社に於ける出資の本質よりして明瞭で、単純なる売買契約と異り、右増資報告承認決議の日迄に所有権の移転をなし得なかつたことにより直に履行不能に陥入り、従つて右出資義務の履行を前提とする本件決議はいづれも当然無効である。

参加人指定代理人に於て、控訴代理人の右主張に対し、

(一)  人吉税務署長は被控訴人等の被承継人亡古賀満次の昭和二十四年分所得税確定申告に対し、同人の同年分所得金額を百七十九万四千九百円、所得税額を百十二万六百五十九円・追徴税額を二十二万二千二百円と更正決定したところ、同人は右更正決定に異議ありとして昭和二十五年四月二十六日熊本国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は右審査の請求を棄却する旨の決定をし、昭和二十六年七月二十日古賀満次にこれを通知した。しかして右所得金額百七十九万四千九百円のうちには控訴人等が昭和二十六年八月十七日提起した本訴において不存在の確認を求める被控訴会社の臨時株主総会に於ける資本増加の決議に基き、古賀満次が控訴人等主張の別紙物件目録記載の建物を被控訴会社に現物出資して額面四百万円の株式を引受けたことに原因する譲渡所得百三十九万二百五十円が含まれている。したがつて、本件株主総会決議不存在確認、現物出資並びに株式引受無効確認及び登記抹消請求訴訟に於て、被控訴人等が敗訴するならば、その判決の反射的効果として参加申立人国もこの財産の帰属を承認せなければならない。その結果、古賀満次に対する人吉税務署長の前記更正決定及び熊本国税局長の審査決定はいづれも古賀満次の昭和二十四年度分所得金額の認定を誤つた違法な処分となり、参加申立人国の古賀満次に対する課税権は侵害される。しかるに被控訴人等は馴合いで控訴人等の請求を認容しようとする虞れがあるから、参加申立人国は本件控訴人等の請求を排撃するため、民事訴訟法第七十一条の規定により訴訟の結果により権利を害せらるべき第三者として当事者参加の申立に及んだのである。而して、控訴人等は昭和二十七年五月二十日の第一審に於ける口頭弁論に於て参加人の参加申出に対し、異議なき旨陳述しているのであるから、当審に於て今更異議申立をなすことは出来ないものである。仮に本件参加の申出が不適法であるとしても、右申出は共同訴訟的補助参加として適法である。

と述べた外、原判決事実摘示と同一だから、ここにこれを引用する。

立証として、控訴代理人は甲第一乃至第三号証を提出し、原審並びに当審証人森田省造、当審証人西得三、同森田勝五郎、同小山十郎、同有村春吉の各証言及び被控訴本人古賀満夫、同古賀満信の各尋問の結果を援用し、丙号各証の成立を認め、被控訴人古賀満夫は甲号各証の成立を認め、参加人国指定代理人は丙第一乃至第八号証を提出し、当審証人赤池亀造、同野間一馬の各証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、控訴代理人は「本件の訴は商法第二百四十七条に規定する株主総会決議取消の訴でないことは勿論、商法第二百五十二条の規定する株主総会決議無効確認の訴でもなく、また改正前の商法第三百七十一条の資本増加無効の訴でもない。唯単に(一)増資に関する被控訴会社の株主総会決議の存在しないことの確認と(二)被控訴会社と亡古賀満次(訴提起当時の共同被告の一名)との間に為された株式引受契約及び現物出資給付契約の無効であることの確認とを、被控訴会社と古賀満次の相続人たる被控訴人古賀満夫外三名とに対して訴求するものであると共に、その外なお(三)右増資に関する登記の抹消登記手続を、被控訴会社に対して求めるものである」と主張するのである。

二、ところで、株主総会決議不存在確認の訴と云つても、株主総会の決議が存在しなかつたと云う過去の事実の確認を求める訴ではなく(若し左様な事実関係の確認を求める訴であるならば、わが民訴法上は許容されないものであつて、却下を免れない)結局は、株主総会決議の効力の発生しなかつたことの確認を求める訴に外ならない。唯「株主総会決議無効の確認の訴」と云う場合には、一応株主総会の決議が存在したことを前提としてその効力が発生しなかつたことを主張するのが普通であり、之に反して「株主総会決議不存在確認の訴」の場合に於ては、株主総会の決議と見るべきものが全然存在しなかつたことを理由として、総会決議の効力の発生していないことを主張するものであるから、訴の理由づけにおいて両者は多少趣を異にするが、然しこれも要するに前者に在つては株主総会決議の効力発生要件の一部欠缺を理由とするに反し、後者に在つてはかかる要件の全面的欠缺を理由とする点の相違だけであつて、その訴に於て確定せらるべきものは両者共に「問題の株主総会の決議が有効に存在したと仮定したならば発生したであろうところの法律効果が、実は発生して居ないこと」に外ならないのである。株主総会決議不存在確認の訴において原告勝訴の判決が確定した場合でも、その判決によつて既判力が生ずるのは「当該株主総会決議が存在しなかつた」と云う事実関係について生ずるのではない(かような事実関係は判決の理由に過ぎない)のであつて、「問題の株主総会決議が有効に存在したと仮定したならば発生すべかりし法律関係が全然発生していないこと」につき既判力が生ずるに過ぎない。従つてこの種の訴も株主総会決議無効確認の訴の一種と云うべきである。

三、商法第二百五十二条によれば「株主総会の決議の内容が法令又は定款に違反すること」を理由とする決議無効確認の訴については、数箇の訴の弁論及び裁判の併合の規定(商法第百五条第三項)訴提起について遅滞なく公告を為すべき規定(同条第四項)原告勝訴判決の効力が第三者に及ぶこと及び原告敗訴の場合の損害賠償に関する規定(同法第百九条)原告勝訴の判決が確定した場合の登記に関する規定(同法第二百五十条)が準用せられている。而して本条の規定する訴の性質については、一種の形成の訴であると為す見解もないではない。然し乍ら、法文にも明かに「無効の確認を請求する訴」として居るのみならず、本条の訴には出訴期間の定めもなく、又「訴によつてのみ主張すべき」旨の規定もないこと、その他同法第二百四十七条以下の株主総会決議の取消の訴を本条の訴と区別して規定していることなどの点から考えると、本条は「株主総会の決議の内容が法令又は定款に違反し、その為に決議が当然無効であること」を理由として、その無効の確認を求める訴について規定したものであり、従つて同条の規定する訴の性質は確認の訴に外ならないものと解するのが相当である。

もともと株主総会の決議無効は何時如何なる方法ででも(即ち、他の訴を理由づける事由として、又は抗弁としてでも主張し得べき筈であり、必ずしも訴を以て無効の確認を求むる必要はないわけである。(「無効であるが、訴以外の方法ではその主張が許されない」と云うことは、夫れ自体に矛盾がある。かような場合は、実は「無効確認」と云うような形式の判決によつて始めて効力が-概ね遡及的に-消滅させられる場合を指すものと見るべきである)また訴を以て無効の確認を求むる場合でも(一般の確認の訴におけると同様に)いやしくも訴訟当事者間に於てその無効を確定すべき利益が存する限りは、如何なる者が如何なる者を相手として訴を起しても差支えない筈である、と共に、その訴訟の判決の効力は特別の規定のない限り当事者(承継人を含む)間に於てのみ生ずべきである。ところが、商法第二百五十二条はかような株主総会決議無効確認の訴について原告勝訴の判決の効力が第三者にまで及ぶものと規定している。それと云うのも、株式会社の如き組織体に在つては、総会の決議が有効か無効かと云う様な問題はこれを劃一的に確定しなければ法律関係を錯綜混乱させる恐れが多いので、それを避ける為に判決の効力を第三者に及ぼすこととし、その他審理の併合・訴の公告・損害賠償等に関する前掲の特別規定を準用することとしたものと思われるのである。

而して、右商法第二百五十二条の訴につき如何なる者がその当事者たるべきかの点に関しては、判然した明文はないのであるが、右の様に原告勝訴の判決の効力が第三者にも及ぶものとする以上は、会社自身をその訴訟の一方の当事者とすべきことはむしろ当然であつて、会社以外の者の間(例えば、株主相互間又は株主と第三者との間)における総会決議無効確認の訴についてまで原告勝訴の判決が第三者に効力を及ぼすものとすることは、不必要であり且つ不適当である。

商法第二百五十二条の準用する同法第百九条第二項その他の諸規定を通覧すると、立法者としては、第二百五十二条の訴についても会社が被告たるべきことを当然のことと予定したものの様にも解せられるが、会社が原告となつて訴える必要のある場合も考えられないわけではなく、会社が原告となつた場合の同種の訴につき右第二百五十二条の適用を排除すべき理由も発見し難い。

以上を要するに商法第二百五十二条は、株主総会の決議の無効確認の訴のうち「決議の内容が法令又は定款に違反する為当然無効であること」を理由とし、且つ会社を一方の当事者とするものにつき規定したものであり、かような訴については原告勝訴の判決の効力は第三者に及ぶものとすると共に、訴の公告・併合審理判決・登記・損害賠償等につき特別規定をしたものと解すべきである。(元来右の様に判決の効力が第三者にも及ぶ様な訴訟を全く弁論主義の支配下に放置しておいて良いかどうかは疑問である。むしろ或る程度まで職権主義を加味する方が適当ではないかと思われるが、商法第二百五十二条の訴については職権主義に依るべきものと解すべき現行法上の根拠は見出し難い)

四、右の如く商法第二百五十二条が「株主総会の決議の内容が法令又は定款に違反する為当然無効であること」を理由として、その無効の確認を求める訴を規定したものならば、同条はその他の理由に基き株主総会決議の無効確認を求める訴乃至いわゆる株主総会決議不存在確認の訴にも準用すべきである。何となれば、これ等の訴も同条所定の訴と理由こそ異なるが、判決によつて確定を求めんとするものは結局「問題の決議が有効に存在したと仮定すれば、発生すべかりしところの法律関係の不存在」に外ならないのであつて、この意味に於ては同条の訴と性質を異にするものでない(この事は前に詳述した)のみならず、その判決の効力を広く第三者に及ぼして劃一的確定を計ることの実際上の必要の点に於ても右第二百五十二条の訴の場合と差別すべき理由を見出し難いからである。従つて当裁判所は、商法第二百五十二条の規定は会社を一方の当事者とするところの株主総会決議無効確認の訴一般に、従つていわゆる株主総会決議不存在確認の訴にも、準用があるものと解する。(近時東京地方裁判所第八民事部も同裁判所昭和二九年(モ)第一〇七六四号のいわゆる白木屋事件につき、理由は多少異るが結論に於ては右と同一の見解を示した)

本件では被控訴会社の株主たる控訴人両名は、被控訴会社と株主古賀満次とを共同被告として株主総会決議不存在確認の訴を提起したのであるが、控訴人等と被控訴会社との間の訴訟については商法第二百五十二条の準用があり、従つて若し控訴人等が勝訴すればその判決の効力が第三者に及ぶべきことは、上述したところで明かであろう。ところが、古賀満次・従つてその承継人たる被控訴人古賀満夫外三名に対する訴は(一)これを商法第二百五十二条を準用すべき訴として見るときは、被告が当事者適格を欠く訴として却下しなければならない。(二)又右法条と関係のない単なる株主間の総会決議不存在確認の訴(従つて判決の効力は当事者間にのみ生ずる訴)であるとすれば、訴の利益を欠くものとして却下すべきである。けだし前述の様に会社を相手方として決議不存在確認の訴を起しさえすれば、株主相互間はもとより第三者に対してまで効力を生ずる判決を求め得るのであつて、しかも本件では現に一方に於て被控訴会社を相手方として左様な訴を提起して居るのであるから、その外に株主相互間のみに効力を生ずべき判決を求める利益があろうとは考えられない、のみならず、控訴人の主張事実は、被控訴人等の全然争わないところでもある(被控訴人のうち金沢ハルカは、第一審以来本件口頭弁論期日に一回も出頭しないけれども、控訴人の主張事実を争うものとも思われない)から、古賀満次の承継人たる被控訴人等に対するいわゆる株主総会決議不存在確認の請求は所せん利益なきものとして却下を免れないのである。

五、なお改正前の商法第三百七十一条は、資本増加の無効は増資の登記後六ケ月内に訴を以てのみ主張し得る旨を規定して居つた。而して被控訴会社における本件問題の増資については昭和二十四年六月三十日に増資の登記が為されたが、その後右第三百七十一条に依る資本増加無効の訴が提起せらるることなく六ケ月を経過したことは、控訴人の主張自体に徴して明かであるから、最早今日に於ては訴を以てしても本件増資の無効を主張することは出来ないかのように見える。そうすると、被控訴会社に対する本件の訴についても、その適否乃至請求の当否が、右第三百七十一条との関連上疑問視されるかも知れない。

然し乍ら、右第三百七十一条は、登記後六ケ月内に提起せられた訴を以て主張する以外の方法では、増資の無効を主張することが出来ないとするのであるから、結局かかる訴に基く増資無効の判決が確定するまでは、増資は有効なものとして取扱われるものと為さざるを得ないのであつて、そうすると結局、同条に規定する訴はカシある増資につきその効力を失わしむることを目的とする一種の形成の訴に外ならないものであつて、増資の登記後六ケ月内にかかる訴が提起されないとき(提起せられても、請求が棄却せられたとき)は、たとえカシのある増資でもそのカシが治癒せられて完全な効力を有するに至るものと解せざるを得ない。

さすれば、本条の適用のあるのは、たとえカシがあつてもそのカシの治癒によつて完全な効力を有せしむるに適するだけの増資の実体を備うる場合に限るべきであつて、左様な実体のない場合には、たとえ増資の登記は為されて居つても、本条の適用なく、従つて何時如何なる方法によつても、又誰からでも、増資の無効の主張(不存在の主張を含む)が為され得べき筈である。

如何なる程度の増資の実体を具うれば右第三百七十一条の適用があると為すべきかは、解決に困難な問題であるけれども、増資に関する株主総会の決議が全然為されなかつた様な場合には、たとえ増資の登記が為されたとしても右第三百七十一条の適用はなく、従つて、何時誰からでも増資の当然無効乃至不存在の主張を為し得べく、いわんや株主総会の決議自体の無効乃至不存在の主張を為すことはもとより妨げないもの、と云わねばならない。故に本件株主総会決議不存在確認の請求は、右商法第三百七十一条の規定と何等相容れないものではない。

なお、増資に関する株主総会の決議が為されたけれどもその決議の内容が法令乃至定款に違反する為当然無効と為すべき場合(即ち商法第二百五十二条の適用ある場合)に、右改正前の商法第三百七十一条の適用があるものと解すべきか否か、又その適用がありと解しても、登記後六ケ月内に増資無効の訴が提起せられずして増資が有効に確定した後に商法第二百五十二条に依る増資に関する総会決議無効の訴が許されるか否か(利益ありと為すべきか否か)等も相当問題ではあるが、本件では控訴人は右の様な「決議の法令乃至定款違反による無効」を主張しているのではないから、ここでは右の点の詳論は避ける。

六、ところで、株式会社の増資新株の引受は、該増資に関する有効な株主総会の決議のあつたことを前提とする。換言すれば、右の様な有効な増資決議の存することが、引受の効力発生についての法律上の条件をなすものと見るべきであるから、若し増資に関する総会の決議につき無効確認(不存在確認を含む)の判決がありその判決が確定すれば、その判決は、間接には、増資新株の引受の無効をも(第三者に及ぶべき効力を以て)確定したこととなる。けだし、増資決議の効力の有無が、増資新株引受の効力の有無の前提(先決)問題たる関係に立つて居り、しかも、増資決議無効(不存在)確認の判決は第三者に対しても効力を生ずるからである。

而して、株式の引受が無効と云うことになれば、その引受株式に対する現物出資として為された不動産の譲渡については(譲渡自体としては当然無効とはならないとしても)所得税法にいわゆる譲渡所得としての課税を為す余地が存しなくなるであろう。何となれば、株式の引受が無効である以上、現物出資としての不動産の譲渡に因る所得は皆無であるからである。

本件では、人吉税務署長が古賀満次に対して決定を為した昭和二十四年度分の所得金額のうちには、被控訴会社の問題の増資の際に古賀満次が別紙目録不動産を現物出資として増資新株式を引受けたことに因る譲渡所得百三十九万円余が含まれていることは、当事者双方・参加人間に争のないところである。だとすれば、本件株主総会決議不存在確認の訴の結果如何では、国は満次に対する不動産譲渡所得の課税を為し得ざることとなるわけであり、従つて民訴法第七十一条にいわゆる「訴訟の結果により権利を害せらるべきことを主張する第三者」の立場に在るのである。さればこそ、国は民訴法第七十一条による当事者参加の申立をしたのである、が然し乍ら国は右総会決議不存在確認の訴については当事者たる適格がないのであるから、この訴訟に当事者として参加することは許されないと解するのが相当である。但し、この申立は少くとも補助参加の申立として効力があるものと云うべきであり、しかも国は前記の様に訴訟の結果により権利を害せらるべき立場に在るのであるから、右の補助参加はいわゆる共同訴訟的補助参加として認むべきである。なお、国は民訴法第七十一条の当事者参加の申立をしたのであるが、何等国独自の請求は提起せず、単に原告の請求棄却の判決を求めて参加申立をしたのであるから、この参加申立を共同訴訟的補助参加の申立としてその効力を認むるにおいては、当事者参加の申立について別に主文で申立却下の宣告を為すことは必要でないものと解する。

七、そこで進んで株主総会不存在確認の訴の本案について、判断すべきであるが、右の様に国の参加は共同訴訟的補助参加として是認されるべきものであるから、当事者間に争のない事実でも、参加人に於て争う限りは、争あるものとして証拠による判断をしなければならない。

ところで、被控訴会社において「昭和二十四年六月十二日午前十時人吉市九日町二十六番地の会社本店に於て、株主総数九名全員出席して臨時株主総会を開き、会社の資本総額金百万円を金五百万円に増加し、金四百万円の資本増加に伴う新株式八万株は株主古賀満次に於て引受けること・この引受新株に対する払込は現物出資として別紙目録不動産を同月二十五日迄に会社に給付すること・右不動産を価格金四百万円と評価し、之に対し会社は一株につき金五十円払込済の新株式八万株を古賀満次に交付すること・の決議を為した」旨の議事録を作成したこと、古賀満次が、同月十二日に、自ら被控訴会社代表取締役として、被控訴会社との間に「被控訴会社の新株式八万株一株の金額五十円合計金四百万円を引受け、之に対し前記不動産を価格金四百万円と評価して現物出資し、会社は之に対し一株金五十円払込済の新株式八万株の交付を為すべき」旨の現物出資による新株式引受の契約を為し、更に同月二十三日満次が、前同様自ら会社を代表して、会社との間に「前記不動産を被控訴会社増資新株式八万株引受の給付義務履行として被控訴会社に給付引渡す」旨の契約を為したこと、次いで、被控訴会社が「同年六月三十日午前十時人吉市九日町二十六番地の会社本店に於て株主総数九名全員出席して臨時株主総会を開き、右資本増加に関する監査役の調査報告承認の件及び資本増加の定款変更の件を付議可決した」旨の議事録を作成し、同日熊本地方法務局人吉支局に申請して、被控訴会社の資本金額四百万円を増加した旨の登記をしたことは、当事者並びに参加人間に争のないところである。

控訴人は「右議事録に記載せられた六月十二日と三十日の被控訴会社の株主総会は、単に議事録にその記載が為されているだけであつて、現実には何等左様な総会は開かれず、従つて同記載の様な決議もなされていない」と主張する。けれ共、本件の証拠によつて見ると、全然右株主総会が開催された形跡がなかつたものとは思われない。即ち、成立に争のない丙第一・第二号証(議事録)第三乃至第八号証、甲第一・第二号証及び記録中の戸籍謄本の各記載に証人西得三・小山十郎の各証言、本人訊問における被控訴人古賀満夫・古賀満信の陳述等を綜合して見ると、昭和二十四年六月の本件問題の増資の頃の被控訴会社の株主は

代表取締役 古賀満次

取締役 西得三

取締役(古賀満信の妻の兄) 森田勝五郎

取締役(古賀満次の娘被控訴人ミツ子の夫) 小山十郎

取締役(同長男・被控訴人) 古賀満夫

監査役(同四男・被控訴人) 古賀満信

監査役(満信の妻の遠縁者) 森田省造

株主(満次の妻・控訴人) 古賀タイ

株主(満夫の妻・控訴人) 古賀イツ子

の九名に過ぎず、会社組織ではあるもののその実体は古賀満次個人の金融業を営む一つの方便であつて、世上によく「個人会社」と云われるものの一種であり、会社の実権は満次に在つて同人が万端の支配をしていたこと、左様な関係にあるので、本件問題の増資についても、各株主に対して議案を記載した正式の書面による総会の召集等はしなかつた(かねて、かような正式の召集形式はとつていなかつた)けれども、それぞれ議事録記載の日に各株主に対して口頭・電話乃至は使者等を以て株主総会の召集を為し、前記総株主九名の内女子株主(即ち満次の妻と長男の妻)の二名を除く他の男子株主七名位(少くとも六名)は集合し、満次より議事録記載の増資に関する案を示して協議の結果何等異議もなく可決決定したものであり、総会に出席しなかつた株主といえども、この増資の件については、その当時は勿論増資登記の後も何等異議不服もなく経過したのであつたが、右増資についての満次の現物出資に関して人吉税務署長より所得の決定をせらるるに及んで始めて、右株主総会の決議の無効・不存在を問題とするに至つた事情であることを認むるに足る。(以上の認定に反する証人及び本人の陳述はすべて信用し難い)

右の様に本件増資に関する株主総会は、議案を示しての書面による召集状が法定期間を存して各株主に送達せられた事実こそないものの、前記の様な実体を有する小会社(むしろ有限会社とする方が適当である様な会社)において、召集権を有する代表取締役古賀満次の召集によつて兎も角も会議が開催せられ、株主中の大部分たる七名乃至六名が出席して、それぞれの議決が為されたものであり、しかも不出席の株主においてもこれにつき何等異議不服もなかつたものである以上、本件で「株主総会は開催されなかつた」とすることは適当でなく、召集手続等において違法なカシはあつたものの、兎も角も法律上株主総会と目し得べきものが開催され、その総会に於て決議が為されたもの、と認めるのが相当である。(なお、右会議の場所についても、実は九日町二十六番地の本店事務所において開かれたものでなく、当時の満次の自宅である五日町十八番地において開かれたものの如く陳述する証人や本人もあるが、これ等の陳述は俄かに信用し難いのみならず、仮に満次自宅で開催せられたものとしても、当日満次が始めから自宅で開くべく召集したものであつたとすれば、たとえ議事録には「本店に於て開催」と書いてあつてもそれは単に議事録の記載の不実と云うにとどまり、このことのみに拠つて「総会は不存在」と為すことは出来ないのである)

以上の次第であるから、被控訴会社に於ては、議事録記載の如く昭和二十四年六月十二日と三十日とに、それぞれ同記載の如き増資に関する株主総会が開かれて株主の決議が為されたものであり、その決議は商法第二百四十七条以下の取消の訴によつて争い得べきカシが存したに過ぎない(そのカシもその後出訴期間の経過により治癒された)ものと認むべく、控訴人主張の如く全然法律上株主総会の開催なく従つてその決議も存しなかつたものでないことは勿論、また右決議が当然無効の決議であるとも認め得ないのである。

果して然りとすれば、株主総会の開催と目すべきものが存しなかつたことを理由とする控訴人の決議不存在確認の請求は、その理由がないものと云わねばならない。

八、以上の通りであるから、右株主総会の決議の不存在を理由として「古賀満次の増資新株式引受並びにその引受株式に対する現物出資としての不動産譲渡は無効だ」とする控訴人の主張も、また当然理由がないこととなる。

控訴人は更に「仮に株主総会決議が存在したとしても、満次の増資新株式の引受契約並びにその引受株式に対する現物出資給付契約は、改正前の商法第二百六十五条に違反するから無効だ」と主張するのであるけれども、増資新株の引受並びにその引受株式に対する現物出資の履行行為については右商法第二百六十五条の適用はないものと解するのが、相当である。けだし、現物出資の場合は、出資者の氏名・目的物・その価格及び出資者に与うべき株式の数を増資に関する株主総会で決議すべきものであるべきであり、すでに総会の決議によつてこの様なことが定められた以上、会社の利益保護の為に設けられた商法第二百六十五条の監査役の承認の手続を重ねて履む必要はないものと解するのが相当だからである。

そうすると、控訴人の満次の株式引受並びにその引受株式に対する現物出資としての不動産の給付(譲渡)の無効確認を求むる請求も、控訴人主張の上記の理由では認容し難いものと為さねばならない。

九、控訴人は更に「古賀満次が現物出資の目的とした不動産中人吉市九日町二十六番の七家屋番号同町第二十五番の二(契約書に「第二十五番の三」とあるのは同番の二の誤記である)木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二十三坪二合五勺外二階十四坪は当時訴外小山十郎の所有であり、その後訴外有村春吉に譲渡され既にその登記も完了しているのであるから、この物件を現物出資とする増資新株式の引受契約及びその給付契約は共に無効である」と主張する。而して成立に争のない甲第一号証(株式引受証)第二号証(引渡証)と甲第三号証(登記簿抄本)とを対照すれば、右株式引受証・引渡証に「人吉市九日町二十六番の七家屋番号同町第二十五番の三木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二十三坪二合五勺外二階十四坪」とあるのは、登記簿上は家屋番号同町の二として登載せられた同一地上同一構造坪数の家屋に該当するものであること、該家屋は登記簿上は昭和二十三年中より満次の娘婿である前記小山十郎の所有名義となつて居つたが、昭和二十四年八月八日売買に因り訴外有村春吉に所有権移転の登記が為されたことが認められる。

然し乍ら、小山十郎は満次の娘婿であることと、甲第一・第二号証の記載とによつて見ると、右家屋は登記簿上こそ小山十郎の名義となつていたものの、実際は満次の所有であつた、だからこそ満次が自己の所有物として之を自己引受の株式に対する現物出資の目的と為したものと認めらるる。元来現物出資による株式の引受は、その出資の目的たる物が他人の所有に属するからとて、その一事によつて当然無効たるべきものではない。他人の物でも払込期日までに所有権を取得して出資としての給付を為せば足るものであり、しかも登記登録等の対抗要件はその後に為しても良いのである(改正前の商法第三百五十一条第百七十七条第百七十二条)。また仮に払込期日までに所有権を移転して出資の給付が出来なかつたとしても、その場合にはその後の増資の手続が為されない筈であるが(同第三百五十一条)、若し誤つて給付があつたものとしてその後の増資手続が敢行せられたとしても、その後会社から当該株式引受人に出資の履行を求めその不履行の際失権せしむるか、或いはその不履行による取締役の払込義務を生ずる(同第三百五十六条)だけであつて、新株式の引受そのものが、始めから又は始めに遡つて、無効となるべきものではない。だから「現物出資の目的物が他人の所有であつたから、満次の株式引受は当然無効である」と云う控訴人の主張は、もともと理由のない主張である。

なお前記家屋番号九日町第二五番の二の家屋を現物出資の給付として満次が会社に譲渡した時には、該家屋は登記簿上こそ小山十郎の所有名義であつたにせよ、実際は満次の所有であつたとすれば、右給付行為(即ち該家屋の譲渡)もその当時から当然無効であつたものとは云い得ないわけである。ただ然し乍ら、その後昭和二十四年八月に右家屋が訴外有村春吉に譲渡せられ同人名義に所有権移転登記が為されて居つて、今やこの物件を会社の所有名義と為すことは一応不能と認むべき状況に立至つて居ることが前示甲第三号証と証人有村春吉の証言によつて明かである。そうすると、満次の為した現物出資の給付としての右家屋の譲渡は、当初は全然無効ではなかつたのであるが、完全にはその効力を生じていないうちに、有村への譲渡及びその登記が為された結果、会社はその所有権を全く失うに至つたもので、つまり右現物出資の給付行為は後発的に効力を失つたとも云い得るわけである。

そして、控訴人が「現物出資給付契約の無効」の確認を求める趣旨は、結局「現物出資の給付に因つて目的物件の所有権が被控訴会社に移転していないこと」の確認を求めんとするに在ることが弁論の全趣旨上明かであつて、かような意味に於ては、この家屋に関する限り、控訴人のいわゆる現物出資給付契約無効確認の請求はこれを認容しても良いものと認める。

十、最後に、控訴人は被控訴会社に対して増資の登記の抹消手続を訴求して居るけれども、本件の増資については、之に関する株主総会が開催され之に基いて株式の引受・現物出資の履行が行われたものであつて、決して控訴人主張の通り何等株主総会と目すべきものが開催されず従つて増資に関する決議が全く存在しなかつたと見るべきでないこと前記の通りであるから、「増資に関する株主総会の決議の不存在」を前提とする増資登記抹消の請求は認容するに由ないものである。

以上の理由により、民事訴訟法第三百八十六条第三百八十五条第九十五条第九十六条第九十二条第九十四条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 森静雄 判事 竹下利之右衛門 判事 高次三吉)

(別紙物件目録は省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例